ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』

ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』

ボッティチェリの超有名な名画『ヴィーナスの誕生』を詳しく解説。

サンドロ・ボッティチェリ(1444/45〜1510年)
1483から85年頃 テンペラ カンヴァス 172.5×278.5cm フィレンツェ(イタリア) ウフィツィ美術館蔵

ギリシャ神話の美の女神ヴィーナスが海の泡から誕生した様子を描く。

ルネサンス期のイタリアでは、キリスト教が主題の祭壇画であれば大作も多いが、神話の場面は家具を飾るための小ぶりな作品が定番であった。しかし本作は、「172cm×278cm」という大作であり、キリスト教を主題としない絵画として異例のサイズであった。

裸は人間を堕落させるとしてキリスト教圏では忌むべきものとされ、「アダムとイブ」のような例外を除き描かれてこなかった。
ルネサンス期になるとそのような禁忌から解放され、ギリシャ神話などを元にした裸婦が描かれるようになった。
ボッティチェリが描くヴィーナスは、古代ギリシャの理想を復古する「ルネサンス」の象徴のように、古代ギリシャの理想的な肉体をもつ美の女神として描かれている。

ヴィーナスは海から生まれたとされる(ギリシャ最古の詩人のひとり、ヘシオドスによる『神統記』188-200)。
天空神ウラノスの男性器が切り取られて海に投げ捨てられたとき(「ウラノスの去勢」の逸話)、そこから生じた泡からヴィーナスが生まれた。
ヴィーナスは海で生まれ、穏やかな風に流され、貝殻に乗ったままキュプロス島パフォスの浜辺にたどり着き上陸し、地上に愛をもたらすとされた。 ヴィーナスのギリシャ名はアフロディテ(Aphrodite)は、この海の泡(aphros)が語源であるとされる。

本作では、左側には西風の神ゼピュロス(ゼファー)と、その妻である春の女神フローラ。
春の訪れを告げる穏やかな神であり、本作では風を吹くことで生まれたばかりのヴィーナスを陸へ送り届けている。
右側には時の女神ホーラ。
真っ赤の絹のローブをヴィーナスへと差し出している。

本作はルネサンス絵画の特徴が色濃くでている。
ヴィーナスは古代ギリシア・ローマの彫刻のような姿をしていて、写実を廃しあえてデフォルメすることで「美」を強調した。

陸に到着した貝殻から降りるところ。
舞い散るバラの花はヴィーナスの花
美しいだけではなく鋭い棘があるバラは、愛や生殖能力を象徴している
花の女神フローラ
再生の季節である春をあらわす
首に巻かれているのは、ヴィーナスに捧げるギンバイカの葉
フローラの衣装にはヤグルマギクが描かれる。
この青はラピスラズリを砕いて作るウルトラマリンで、非常に高価
本作『ヴィーナスの誕生』の制作依頼者が費用を惜しまなかったことがわかる
本作ではいたるところに金箔が使われアクセントとなっている。

ボッティチェリ

サンドロ・ボッティチェリ
1445年頃〜1510年 イタリア

ルネサンスの最も有名な画家のひとり。
本名は、アレッサンドロ・ディ・マイアーノ・フィリペーピ
フィレンチェで生まれ、フラ・フィリッポ・リッピの工房で見習いとして働き独立。
主な顧客はフィレンチェの有力者メディチ家のほか、フィレンチェの教会の作品も制作した。
やがてメディチ家が失脚しフィレンチェから追放されると、ボッティチェリも廃れ貧困の中亡くなった。
ボッティチェリの作品の多くは異教的であるとして焼却処分されている。

ボッティチェリの作品が再び日の目をみたのは、19世紀後半である。
現存するボッティチェリの作品としては、本作のほか「プリマヴェーラ(春)」も超有名。

ウェヌス Venus(英語ではヴィーナスまたはビーナス)

ヴィーナスはローマの女神である。
ギリシャ神話の愛と豊穣の女神アフロディテと同一視された(ローマ神話とギリシャ神話に同一視された神が多い)。
ヴィーナスはクピド(キューピッド)の母であり、三美神を侍女とする。
さまざまな持物を持って描かれるが、
・ヴィーナスの凱旋車を引くつがいの鳩または白鳥
・ホタテ貝の貝殻やイルカ
・火の付いたたいまつ
・燃える心臓
・ヴィーナスの聖木であるギンバイカ(永遠の愛を意味する)や赤いバラ(ヴィーナスの血で染まる)
などが多い。
ヴィーナスという題材は芸術家たちに人気で、裸婦像や神話の場面など、さまざまな主題で描かれた。

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