特集:カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ 製作技法 解説

特集:カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ 製作技法 解説

ドイツロマン派の画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの制作技法を解説。セピア画、油彩画、水彩画、透かし絵の技法を用いたフリードリヒの作品を交え解説する。

フリードリヒ製作技法

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒは、主にセピア画、油彩画を描いているが、水彩画や、特殊な技法で描かれた透かし画も描いている。

1790年ごろに、グライフスヴァルト大学の素描教師ヨーハン・ゴットフリート・クヴィストルプに教えを受け始める。この時に、自然の写生、建築素描、設計図作成、飾り文字などの訓練を受けたと思われる。また、当時、カスパーの家系、社会層の人々は自然などより、経済的関心が強かったと思われるが、カスパーの価値観が、経済的なものから、自然などへと移ったのは、この時のクヴィストルプによる功績が大きい。二人の師弟関係は良好に続いた。

1794年、カスパーはコペンハーゲンのアカデミーに入学し、基礎クラスを修了、フリーハンドの素描と石膏を学んだ。この時代の作品には、素描・水彩・グアッシュなどがあるが、様式はさまざまに描かれ定まっていない。ただ、すでにこの頃から、じかに自然を観察し、繊細なスケッチの技法があった。

1800年ごろ、作品としては、習作スケッチのほかに、地誌的風景画を多く描いている。技法は素描、水彩、グアッシュのほかに、黒チョーク、版画等も見られる。この頃、カスパーが一番好んだ技法は、墨や水彩を使ったペン素描であった。油彩画は2枚のみ。セピア画もこの頃から描き始める。

東屋のある風景 カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
『東屋のある風景』

カスパーの最初の成功はセピア画によってなされた。1799年、1801年、1803年〜、ドレスデン・アカデミー展にエントリーされ、肯定的に論評されている。初めての受賞は、1805年のヴァイマル美術愛好会。規定の課題ではなく、本来受賞対象外のセピアの風景画だった。
1800年ごろ〜1807年ごろは、主にセピア画で、既に彼独自の作風がみられる。

アトリエからの眺め カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
『アトリエからの眺め』

1807年ころから、セピア画では不十分と感じ、風景とその雰囲気の微妙なニュアンスを表現する色彩=油彩画を描き始める。油彩画の初期の作品が、1807年ころの

 雪の中の巨人塚(ドルメン) カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
『雪の中の巨人塚(ドルメン)』

カスパーの油彩画が完成した作品が、1808年

山上の十字架 カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
『山上の十字架』

その後は主に油彩画を描き続けるが、素描による習作も多く遺している。

木の習作 カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
『木の習作』

1835年の卒中の発作後は、主にセピア画や水彩画を描いた。

カスパーの描き方は、カンヴァスに下図を描き、茶色の下塗りをほどこす。この茶色の下塗りの上に、絵の具を薄くグレーズのような層にして塗る。これは大変手間のかかる技法だが、描いていく段階で構図の全体を見ることができるし、変更も容易である。

透かし絵

1830年ごろ、非常に斬新な『透かし絵』という技法を使い始めた。
紙の上に、水彩やテンペラなどの透光性の絵の具を塗り、背後に光源を置く。そして見せ方にも工夫を加えている。例えば、現在では紛失してしまった四点の透かし絵では、鑑賞の仕方を詳しく指示している。

順々に見せていくこと。部屋は完全に暗くすること。絵の後ろの窓のそばに、水が一杯に入ったガラスの球を取り付け、そこに射す光だけが入るようにして窓を塞ぐ。もう一枚の絵では、そのガラス球に、半ば水、半ばワインを入れる。そのようにしてフィルターにかけられた日光と適度に調節されたランプの光が、その透かし絵の背後から絵を照らす。絵と光源の交換はできるかぎりひっそりと行い、鑑賞者は静かに腰をおろしていること。
「その効果を高めて、これらの絵が、めぐまれたひとときに、有利な状況で心にかなうようなものにすることができるように、音楽の伴奏をつけて見ていただけたらと思っております。……鑑賞者が、そこがまっ暗闇ならなおさらよいのですが、暗い部屋へと案内されると、第一の絵と調和する音楽が遠くから聞こえるように鳴り響いてきます。そして、その絵を見終わるとすばやく第二の絵へ、そして第三、第四の絵へと移っていくのです。よく理解していただけない言い方をしているような気がしますので、改めて申し上げてみます。つまり、こういうことなのです。最初の第一の絵の伴奏のやや陰気な調べから、第二番の絵の世俗音楽へ移り、そしてそこから第三番の教会音楽へ、さらに第四番の天上の音楽へと移っていくのです。」
『カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ パルコ美術新書』 127頁、PARCO出版、1994年)

このようにカスパーは、総合芸術として、見るだけの絵から、音楽や空間をすべてプロデュースし、芸術の総合体験を意図した。この他に、カスパーがディオラマという技法で描いた作品が一点、現在まで伝わっている。この作品は、表裏ともに絵が描かれ、光源の位置によって、絵の透け具合が変わり、さまざまな雰囲気が生まれる。片面には朝の景、もう片面には夕の景が描かれている。

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