
「森の中の猟騎兵」解説。特集:カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
ドイツロマン派の画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの代表作品『森の中の猟騎兵』を関連する作品を交えながら解説。画像有り。
森の中の猟騎兵

1812年、ナポレオンはロシア遠征に失敗し、ヨーロッパ諸民族はフランスからの解放戦争に突入した。愛国心の強いカスパーもまた、暗示的な風景画によって自分の意志を表明している。

では、まったく空の無い風景を描いている。まったく逃げ場の無い空間を、添景人物であるフランス兵の前に立ちはだからせ、救いも慰めも無い状態においている。周囲には、祖国の守り手たちの墓碑や記念碑を置き、手前にはローマ人の侵略に抗して戦った古代ゲルマンの英雄アルミニウスの墓がある。2人のフランス猟騎兵の行く先は、中央に描かれた洞窟=彼らの墓場のみである。
本作、『森の中の猟騎兵』は、1813〜14年に描かれ、フランスの没落を暗示している。剣を引きずったフランス猟騎兵が、雪に覆われた楡と唐檜の森の中に立ちすくむ。これもまた、通行不可能な壁により、フランス兵の希望を奪っている。手前にある若木の切り株には、死を告げる鳥である一羽のカラスがとまり、フランス兵に死の歌を歌っている。
カスパーの時代のヨーロッパの人々がこの絵を見れば、誰でもロシアの冬に敗れたナポレオン軍を連想する。
この絵も、愛国心的な表現のみではなく、大自然に対する、なすすべもないちっぽけな人間・・人間の孤独をも描いている。