中国で茶碗が焼かれはじめてから、およそ1000年たちました。
この1000年の間数え切れないほどの茶碗が焼かれ、そのいくつかは日本にきました。
日本で本格的に焼かれはじめてからはおよそ400年。
日常使いの茶碗から、一国一城に匹敵する価値を与えられた茶碗まで。
さまざまな茶碗が今にのこされています。
そんな茶碗の中から、特に「名椀」と呼ばれる有名な茶碗をご紹介します。
茶道具には、「名物」という格付けがあります。
江戸後期の茶人・松平不昧が記した『雲州名物帳』に「大名物」「名物」「中興名物」のランキングがあります。
ですがこの記事では、現代の格付けである文化財保護法による「重要文化財」と、重要文化財の中から特に優れたものが選ばれる「国宝」からご紹介します。
国宝に指定されている茶碗8碗(2017年時点)のすべてと、重要文化財の中からいくつか、ほか、個人的にご紹介したい名椀を取り上げます。
とりあえずこの記事では国宝8碗。
そのほかは次回の記事でご紹介。
「国宝」は、1951年6月9日から始まりました(文化財保護法)。
旧文化財保護法では、重要文化財と国宝の違いがなくすべて国宝とされていたので、戦前の文献で「国宝」とされていても現在の国宝とは異なります。
現行法のもとでは、まず「重要文化財」に指定されます。
「重要文化財」の中から特に優れたものを「国宝」に指定することができます。
このため、いきなり国宝になることはありません。
※データは「国指定重要文化財データベース」より
国宝の茶碗 8碗
2017年現在、国宝に指定されている茶碗は8碗。
重要文化財指定は46碗です。
国宝の8碗の内訳は、唐物茶碗が5碗、高麗茶碗が1碗、国焼が2碗。
唐物はすべて天目で、曜変天目が3碗、油滴天目が1碗、玳玻天目が1碗です。
私はすべて拝見したことがありますが、国宝の名に恥じない素晴らしい名椀ばかりです。
曜変天目茶碗 稲葉天目(ようへんてんもく いなばてんもく)
東京:静嘉堂文庫所蔵
南宋時代
寸法・重量: 高6.8 口径12.0 高台径3.8 (㎝)
伝来:稲葉家-小野家-岩崎家-静嘉堂
1941年7月3日 重文指定
1951年6月9日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2017年6月17日〜8月13日 静嘉堂文庫『かおりを飾る 珠玉の香合・香炉展』
2017年4月11日〜5月7日 東京国立博物館『茶の湯展』
2017年1月23日〜3月21日 静嘉堂文庫『茶の湯の美、煎茶の美展』
稲葉家に伝わったことから通称「稲葉天目」として知られる。
曜変天目の中でも最も「星」が多く、「宇宙」に形容される名椀。
国宝の茶碗の中では、最も拝見しやすいかもしれません。
世田谷の静嘉堂文庫所蔵で、静嘉堂文庫では定期的に公開されています。
展覧会への出品も比較的多い。
見込みの中の「星」を窯変と言いますが、たとえ窯変がなくても名椀です。
姿も大きさも色も端正で気品があり本当に美しい。
曜変天目茶碗(ようへんてんもく)
大阪:藤田美術館所蔵
南宋時代
寸法・重量: 高6.8 口径13.6 高台径3.6 (㎝)
伝来:水戸徳川家−藤田家-藤田美術館
1953年3月31日 重文指定
1953年11月14日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2017年3月4日〜6月11日 藤田美術館『ザ・コレクション』展
2015年8月5日〜9月27日 サントリー美術館『藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美』展
曜変天目3碗中の1碗。
※重要文化財の「曜変天目」は曜変天目ではないとする見解もあり、これにより現存する曜変天目が4碗であるのか3碗であるのか異なることになります。
関西の方なら比較的拝見しやすい曜変天目。
東京に出張してくることは珍しいですね。
稲葉天目よりも少し抑えめで落ち着いた印象。
全体のバランスとしてはこちらのほうが整っているかもしれない。
とても美しいです。
口縁には金覆輪をほどこしてあります。
上記写真ではわかりませんが、外側にも曜変があります。
外側に曜変がある曜変天目はこの茶碗だけ。
曜変天目茶碗(ようへんてんもく)
京都:竜光院所蔵
南宋時代
寸法・重量: 高6.6 口径12.1 高台径3.8 (㎝)
伝来:大徳寺塔頭大通庵-竜光院
1908年4月23日 重文指定
1951年6月9日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2017年10月17日〜10月29日 京都国立博物館『開館120周年記念 特別展覧会 国宝』
2000年3月25日〜5月7日 東京国立博物館『文化財保護法50周年記念 日本国宝展』
※「竜光院」は本来では「龍光院」と書きますが、ここでは文化財登録されている表記「竜光院」としています。
※「曜変天目」は「窯変天目」「燿変天目」とも書きますが、文化財登録名称である「曜変天目」を採用しています。
国宝茶碗の中でトップクラスにレア。
まずお目に掛かることはありません。
私は17年前に一度みているはずなのですが、ほとんど覚えていない。。
当時はまだそれほど興味がなかったから。もったいない。
龍光院さんが特別なお茶会とかで使ってそうな気がする。
文化財保護法では、「できるだけこれを公開する等その文化的活用に努めなければならない」とあるのですが、所有者は美術館ではなく宗教施設のお寺さん。
しょうがないけど、そろそろ公開してくれないかな。。
そしていつか、曜変天目三碗を並べる展覧会をしてくれないかな・・
2017年9月追記:京都国立博物館「国宝展」に出品されることが決まりました!
10月17日から10月29日!
これを逃すと、次お目にかかれるのはまた10年以上先かも・・
http://kyoto-kokuhou2017.jp/
油滴天目茶碗(ゆてきてんもく)
大阪:東洋陶磁美術館所蔵
南宋時代
寸法・重量: 高7.0 口径12.3 高台径4.3 (㎝)
伝来:豊臣秀次−西本願寺−三井家(京都六角)−酒井家(若狭)−大阪市
1931年1月19日 重文指定
1951年6月9日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2017年10月31日〜11月26日 京都国立博物館『開館120周年記念 特別展覧会 国宝』
2016年12月10日〜2017年3月26日 東洋陶磁美術館『特集展 宋磁の美』
2016年10月18日〜11月27日 東京国立博物館『禅-心をかたちに-』
2016年4月12日〜5月22日 京都国立博物館『臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念「禅-心をかたちに-」』展
2015年12月13日(日)~2016年1月23日 三井記念美術館『三井家伝世の至宝』展
2015年10月24日~11月23日 福井県立歴史博物館 企画展「再会 ふくいゆかりの名宝たち ~里帰り文化財展~」
2014年9月23日~12月6日 三井記念美術館『東山御物の美 足利将軍家の至宝』
2012年10月27日~2012年12月25日 東洋陶磁美術館『国宝 飛青磁花生と国宝 油滴天目茶碗‐伝世の名品-』展
これまた美しい天目。
曜変天目よりも好きかもしれない。
金覆輪がこれほど似合う茶碗はほかにない。
大阪の美術館(大阪市立)の所蔵ですが、活発に公開されていて全国いろいろなところに出張しています。
目にする機会は多い国宝茶碗です。
玳玻天目茶碗(たいひてんもく)
京都:相国寺所蔵
南宋時代
寸法・重量: 高6.7 口径11.8 高台径3.5 (㎝)
伝来:上田三郎右衛門(大阪)-松平不昧-雲州松平家
1931年1月19日 重文指定
1953年3月31日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2017年10月3日〜10月15日 京都国立博物館『開館120周年記念 特別展覧会 国宝』
2016年10月18日〜11月27日 東京国立博物館『禅-心をかたちに-』
2016年4月12日〜5月22日 京都国立博物館『臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念「禅-心をかたちに-」』展
2014年10月15日~12月7日 東京国立博物館『日本国宝展』
2012年10月12日〜11月25日 富山県水墨美術館『日本のこころ 大本山相国寺・金閣・銀閣名宝展』
べっこうのような模様の天目茶碗。
小さくて美しい。
曜変天目と数ミリしか変わらないのですが、実際にみるとかなり小ぶりに見えます。
曜変天目とは違って、作為的に模様をつけた茶碗ですが、見事に仕上がっています。
井戸茶碗 銘喜左衛門(孤篷庵)
京都:孤篷庵所蔵
李朝朝鮮
寸法・重量: 高9.8 口径15.4 底径5.3 (㎝)
伝来:竹田喜左衛門-本多能登守忠義-中村宗雪-塘氏-松平不昧-孤篷庵
1933年1月23日 重文指定
1951年6月9日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2017年10月31日〜11月26日 京都国立博物館『開館120周年記念 特別展覧会 国宝』
2017年4月28日〜6月4日 東京国立博物館『茶の湯展』
2014年10月15日~12月7日 東京国立博物館『日本国宝展』
2013年11月2日〜12月15日 根津美術館『井戸茶碗』展
2010年6月5日〜2010年7月11日 目黒区美術館『紅心 小堀宗慶展』
高麗茶碗で唯一国宝指定された大井戸茶碗。
大井戸の名にふさわしい堂々とした姿。
実際にみると横からみる姿以上に見込みが深く感じる。
琵琶色の釉薬と貫入が美しく、高台脇のカイラギも見事。
口縁や見込み内に割れ・欠けがあり漆で繕いがされているが、それすらも見どころとなっている。
井戸茶碗の代表格。
お寺さん所蔵の割には展覧会への出品が多く、1〜2年待てば観ることができます。
喜左衛門井戸は、呪われているという伝承がのこっています。
加藤清正がこの井戸茶碗で毒を盛られたため、清正の怨念がこもっているとか。
もうひとつ、喜左衛門井戸を持つ人は「腫れ物」を患いついには死んでしまうという伝説もあります。
志野茶碗 銘「卯花墻(うのはながき)」
東京:三井記念美術館所蔵
桃山時代
寸法・重量: 高9.5 口径11.8 高台径6.05 (㎝)
伝来:冬木家−山田喜之助-三井家
1955年2月2日 重文指定
1959年6月27日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2017年10月3日〜11月26日 京都国立博物館『開館120周年記念 特別展覧会 国宝』
2017年4月11日〜6月4日 東京国立博物館『茶の湯展』
2015年4月11日~5月6日 『三井文庫開設50周年・三井記念美術館開館10周年 記念特別展I 三井の文化と歴史」
2014年10月15日~12月7日 東京国立博物館『日本国宝展』
2013年年9月10日~11月24日『特別展 国宝「卯花墻」と桃山の名陶』
2012年2月8日〜4月8日 三井記念美術館『茶会への招待~三井家の茶道具』
2010年12月3日~2011年1月29日『室町三井家の名品 卯花墻と箱根松の茶屋』
2009年10月4日〜11月15日 林原美術館『三井記念美術館茶の湯の名品 -利休の道具と国宝志野茶碗卯花墻-』
2007年1月4日~1月31日 三井記念美術館『企画展「新春の寿ぎ」』
素地は百草土。
素地の上に鉄絵具で絵を描き、その上に長石の志野釉をかける典型的な志野茶碗であり、代表的な志野茶碗。
志野釉の下に透けて見える絵、ところどころ赤く焼けた肌、ろくろ整形後にゆがませ、ヘラを入れた造形、すべてが絶妙なバランスで融合した名椀。
天正年間に大萱牟田洞で焼かれたとみられている。
天正とは、織田信長が浅井長政・松永久秀を攻め滅ぼしてから、千利休が切腹し、秀吉の朝鮮出兵が始まるまでの頃を指します。
大萱牟田洞は現在の岐阜県可児市。美濃桃山陶器の聖地です。
年に一度は公開されているイメージがあります。
元越後屋、三井さんの所蔵。
楽焼白片身変茶碗 銘不二山
作者:本阿弥光悦
別名:振袖茶碗
長野:サンリツ服部美術館所蔵
江戸時代
寸法・重量: 高9.5 口径11.8 高台径6.05 (㎝)
伝来:比喜多権兵衛−酒井家(姫路)−サンリツ服部美術館
1952年3月29日 重文指定
1952年11月22日 国宝指定
公開履歴:(一部)
2016年7月10日~9月4日 サンリツ服部美術館『服部一郎没後30年 特別企画展 禅宗と茶の湯の美』
2015年7月18日~11月15日 サンリツ服部美術館『花ひらく琳派 絵画とやきものでたどる装飾美の系譜』
2014年9月11日〜2015年1月31日 サンリツ服部美術館『茶入 もう一つの美術史特別出品 本阿弥光悦作国宝「白楽茶碗銘不二山」』
2004年6月26日~10月17日 サンリツ服部美術館『茶道具の美 時代を越えた名品』
※楽茶碗は本来「樂茶碗」と書きますが、「樂」が常用外漢字のためか文化財登録は「楽」の字が使われています。
本阿弥光悦が焼いた楽茶碗。
本阿弥光悦は江戸時代初期、京都の鷹峯に芸術村を築いた元祖芸術プロデューサー。
楽家3代目の道入と懇意にしており、楽家の土をもらい受けて鷹峯で整形し、楽家の窯で焼いたそうです。
楽歴代の作品ではありませんが、楽窯で焼かれているため正真正銘の楽茶碗です。
本作は楽茶碗としては珍しい「白楽茶碗」。
白い土に白い釉薬をかけてあります。
下半分は炭化して黒くなり片身替わりとなっていますが、意図したものではなく窯の中で偶然おきたもの。
光悦が娘の嫁入りに持たせ、振袖に包んで持参したことから「振袖茶碗」とも呼ばれる。
和物茶碗の最高峰とされる茶碗です。
是非本物を観て欲しい。
薄暗い中でところどころキラキラと反射するのをみることができますが、鉛釉の変化による銀化した箇所らしいです。
私も一度しかみたことがありません。
長野県の諏訪湖のほとりにあるサンリツ服部美術館の所蔵ですが、常設されていません。
企画展で本作が展示されるときにあわせて、諏訪湖に行く必要があります。
館外に貸し出して出品されたという話は聞いたことがないですね。
諏訪湖は諏訪大社や間欠泉とかもあって面白いですしキャンプも出来ます。
本作「不二山」をみるためだけに行っても損はしないと思います。
私も拝見してから13年たちますが、今でもハッキリ覚えています。
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1.基礎:茶碗の種類や名称を豊富な写真で
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3.名椀・国宝茶碗一覧
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おまけ:国宝と重要文化財に指定された茶碗一覧。観賞用全リストPDFあり
東京都内で茶碗・茶陶の鑑賞ができる美術館・博物館一覧
茶碗写真の多くは「特別展『茶の湯』東京国立博物館 図録」「茶の湯のうつわ-和漢の世界-出光美術館 図録」より