茶碗各部の名称
小さな茶碗ですが、茶碗の各部には名称がついていて、それぞれさまざまな種類があり見所ともなっています。
口造り(くちづくり)
口縁部とも言います。
茶を喫する器である茶碗にとって、口が触れることとなる重要な部分です。
茶の飲みやすさや口当たりのよさも考慮して作られているのが基本となります。
それぞれの形にも名前がついていて、例えば上図の左側の茶碗は「端反り(はたぞり)」といって外側に反っています。
右側の樂茶碗は「姥口(うばぐち)」といって、逆に内側に反っています。
このほか、
玉のように膨らんでいる「玉縁(たまぶち)」
まっすぐになっている「直口(すぐぐち)」
ヘラによって平らに削られている「樋口(とゆぐち)」
薄く尖っている「蛤口(はまぐりくち)」等があります。
玉縁
樋口(きりまわしとも言う)
高台(こうだい)
茶碗の土台の部分を高台といいます。
高台にもさまざまな形があります。
釉薬はかけないことが多いですが、黒樂茶碗は総釉(高台を含め全体に釉薬をかける。下画像の右側)が基本形です。(下画像の左側は高台まわりに釉薬をかけない土見せ)
ヘラで高台を削るときに出来る「兜巾(ときん)」という尖りや、土が削れる時にできる「梅花皮(かいらぎ)」や「縮緬皺(ちりめんじわ)」も大きな見所のひとつとなっています。
美術館に展示してあるときは残念ながらあまり見えないことが多いです。
高台にも様々なタイプがあり、竹の節のような「竹の節高台(たけのふし)」、十字に切り込みが入っている「割高台(わりこうだい)」などが有名です。
高台が畳と接する部分を「畳付き」と言いますが、写真右側の畳付きには3カ所の「目跡(めあと)」があります。
焼成時に釉薬がくっつかないようにするための跡ですが、見所のひとつともなっています。
釉薬をかけ残して露胎となった高台
竹の節高台
切高台
割高台
鉢高台(撥高台)
茶碗の形
天目形(てんもくがた)
椀形(わんなり)
井戸形(いどがた)
筒形(つつがた)
平形(ひらがた)
沓型(くつがた)
見所:肌
貫入
釉薬の表面に入る細かいひび割れを「貫入(かんにゅう)」と言います。
茶碗をみるときのポイントのうち、私が一番好きなのがこの貫入。
ヒビがとても美しい。
茶碗が窯の中で焼成されるときに、釉薬が溶けることでガラス質になります。
素地(土)の膨張率よりも釉薬の膨張率のほうが大きいため、溶けた釉薬が冷めるときに釉薬にヒビが入ります。
膨張率の差が大きければ細かい貫入となり、小さいときには大きな貫入となります。
差がないときや素地の膨張率の方が大きいときには、貫入は入りません。
このヒビは釉薬にしか入っていないので、ひび割れているようにみえても素地自体は割れていません。
個人的には「青磁」に入る貫入がもっとも美しいと思います。
現代陶工で人間国宝の故清水卯一氏の青磁の貫入は素晴らしい。一見ガラス製品にみえます。
釉薬・火焼け・窯変
茶碗の種類をそのままあらわすと言ってもいい釉薬の種類や肌。
志野であれば白。
井戸であればかせた肌。
織部であれば銅釉の緑。
黒樂であれば引き出し黒。
天目は窯変によるさまざま表情。
青磁は透き通る青や白の肌。
ほか雪のような萩や、
片身替わりのような特殊なものもあります。
下記は上下に片身替わりした「銘不二山」ですが、左右に片身替わりした茶碗や、意図せず窯の中の炎が当たった部分だけが変色したものなどがあります。
ピンク色に窯変した水差しの肌
窯変の最高峰
窯変、曜変は、思った通りに作ることは困難。
窯の中の偶然により出てくる。
肌
茶碗の見どころはなんといっても肌
青磁の美しく深い色もあれば
まるで岩石を削り出したような伊羅保のようなガサガサの肌
釉薬をかけない信楽のワイルドさ
艶やかな黒楽のうえにかすかにかかる霞のような白い釉薬
赤土の肌を最大限に楽しめるかせた赤樂
絵
左上から時計回りに、志野の鉄絵、赤絵、尾形乾山の銹絵、保全の絵
茶碗に絵を描くこともある。
水墨のような抽象的な絵から、金彩を駆使した絢爛な絵まで様々。
その他の見所
金継ぎ
欠けや割れを修復する技法ですが、ただ修復するだけではなく修復跡自体が見どころともなります。
漆で修復した上から金粉等を蒔いています。
金覆輪
口縁の部分を金属の板で覆います。
装飾目的のほか、弱い口縁部を保護する目的もあります。
用語集
鬼
正当ではないという意味をもつ。
文字通り荒々しいという意味で使われることもある。
梅華皮(かいらぎ)
腰から高台にかけてあらわれる、釉薬の縮れた状態。
鏡(かがみ)
見込みの中央が円形に段をなしてへこんでいるところ。
かせる、かせ釉
釉薬の表面がかせてつやのない状態
かせた肌と言ったりする
片身替(かたみがわり)
釉薬を半面にしかかけない等、半面ずつ表情が違う状態
食違(くいちがい)
縦に割れた茶碗を重ね合わせたもの
釘彫(くぎぼり)
高台内の釘で掘ったような渦巻き状の文のこと
碁笥底(ごけぞこ)
高台がない茶碗の底
畳付(たたみつき)
高台の最下部で地面に直接触れるところ
茶溜(ちゃだまり)
樂茶碗にみられる
見込みの下部中央が丸く窪んでいるのが茶溜
「鏡」も茶溜りの一種であるが、樂茶碗の場合は茶溜、高麗茶碗は鏡というのが一般的
縮緬皺(ちりめんじわ)
梅華皮ににているが、こちらは釉薬ではなく土による皺
ヘラ削りの際に土質によっては縮れたような跡ができる
高台脇にあらわれ見どころとなる
露(つゆ)
釉の垂れた先端が玉状になっているもの
火変り(ひがわり)
窯変の一種
土が赤くなったり青くなったりする現象
引出黒(ひきだしぐろ)
黒楽や黒瀬戸の技法
窯の中で釉薬が溶けている最中に茶碗を取り出す
釉薬は急冷されて艶をもったまま黒くなる
このとき茶碗を掴む道具を「はさみ」といい、はさみの跡は樂茶碗の見どころのひとつともなる
ひっつき
窯の中でほかの茶碗等とくっついた跡
火間(ひま)
釉薬や化粧土がかかっていない部分
篦削り(ヘラ削り)
茶碗を整形後乾く前にヘラで削ること
幕釉(まくぐすり)
たっぷりとかけられた釉が帯のようになっているところ
虫喰(むしくい)
釉に空気が入って窯の中ではぜた跡
虫喰いのような穴ができることから
目、目跡(めあと)
茶碗を重ねて焼くときに、茶碗の間に挟む砂粒の跡
高台と見込みの両方にあらわれる
総釉(高台もすべて釉をかける)の場合は重ねなくても高台下に挟むものの目が残る
呼次(よびつぎ)
割れたり欠けたしした箇所を他の茶碗の破片で補うこと
轆轤目(ろくろめ)
茶碗に残るろくろで回した時についた段々などの跡
人物
村田珠光(1423年〜1502年)
茶祖。茶の湯の創始者。
一休和尚に参禅し足利義政に従った。
武野紹鴎(1502年〜1555年)
珠光から利休へと繋ぐ重要人物
和歌や連歌、禅にも親しんだ
千利休(1522年〜1591年)
茶の湯、佗茶の大成者。
紹鴎に学び、織田信長、豊臣秀吉に茶匠として仕えた。
長次郎とともに樂焼を創始、現在の千家・千家十職の祖となる。
秀吉の命により切腹するが、茶の湯に与えた影響は計り知れない。
古田織部(1543年〜1615年)
秀吉の家臣である戦国武将
利休に学んだ茶人でもあり
利休死後は天下一の茶人となる
利休が静かな茶だとすれば、織部は動きのある茶
常識を覆すアヴァンギャルドな織部好みは「破調の美」とも言われ、織部茶碗にもあらわれている
小堀遠州(1579年〜1647年)
織部に茶を学んだ大名
はじめ秀吉に仕えるが、やがて徳川幕府の大名となる
茶人としては優美で均整の取れた「きれいさび」で知られる
遠州流の祖
「中興名物」を選定するなど茶に関わる活動も活発におこなった
茶だけではなく華道や作庭でも才能を発揮した
織田有楽斎(1547年〜1622年)
織田信長の13歳違いの弟
千利休から茶を学ぶ
信長死後豊臣家と徳川家の橋渡しのような立場となるが、大坂夏の陣を前に隠居、余生を茶人として生きた。
本阿弥光悦(1558年から1637年)
「寛永の三筆」に数えられる文化人
徳川家康から京都鷹峯の地を賜り芸術村をつくる。
芸術プロデューサーとして活躍するかたわら自らも芸術活動をおこない、その作品は現在2点が国宝に指定されている(本人の作であるのか、プロデュースしただけなのかは諸説あり)
樂家と交わりが深く、樂焼きを多く焼いた
松平不昧(1751年〜1818年)
江戸時代後期の茶人
松江藩の城主で藩政経営に才能を発揮、稼いだ財力で茶器の蒐集に力を入れる
「大名物」などを分類した「雲州蔵帳」を仕上げる
不昧の茶の湯は後の数寄者たちに大きな影響を与えた
茶碗のほかの茶道具と文化財の名前
展覧会をみていると、茶碗の次によく目にするのが「水指」と「茶入」「棗」です。
簡単にご説明します。
水指
点前のときに、茶釜に足す水や茶筅を洗う水を貯めておく噐
茶碗よりも早く国内で生産された
茶碗と同様さまざまな種類があある
備前耳付水指銘巌松
棗(なつめ)と茶入れ
唐物肩衝茶入銘初花
黒漆大棗銘紹鴎棗
棗と茶入れの違いは、薄茶と濃茶の違いです。
点前は、大きく分けると「薄茶(お薄)」と「濃茶(お濃茶)」があります。
薄茶は、通常よくみるタイプ。
お庭や美術館で「お呈茶」として出されるのもお薄です。
濃茶は、テレビとかでたまに見る回し飲みをするやつです。
薄茶は茶を「点て」ますが、濃茶は茶を「練る」といいます。
練るほど濃いんです。
薄茶では茶を棗に入れます。
濃茶では茶を茶入に入れます。
文化財の名前
茶碗などの文化財の名前は、漢字ばかり並んでいて慣れないと良く分かりません。
ですが、慣れるととても分かりやすい命名です。
そのものを見たことがなくても、名前をみればどのような物なのか予想がつきます。
例えば、上の「唐物肩衝茶入銘初花」
これは「唐物」「肩衝」「茶入」「銘初花」に分解できます。
最後の「銘○○」は、愛称のようなものです。
特に素晴らしい物には、名前が付くことがあります。
この名前のことを「銘」といいます。
「銘初花」は、「初花」という銘がついています、という意味です。
「銘○○」を除いて考えると、一番最後に来る単語が、その物がなんなのかをあらわしています。
「茶入」なのか「棗」なのか「水指」なのか「茶碗」なのか。
その前は、物の説明です。
素材や由来、製法、特徴、分類などが入ります。
「唐物」は分類です。
中国で作られた茶道具を唐物といいます。
次の「肩衝」は特徴です。
上の写真のように、肩の部分が水平になっているものを「肩衝」と言います。
「唐物肩衝茶入銘初花」は、唐物で肩が水平になっている茶入で「初花」の銘がついている。と、名前だけでどんなものか想像できるのです。
「肩衝」のような特徴をあらわす言葉はほかにもあり、茶入であれば「文琳」は林檎のような形(中国の故事から文琳は林檎を意味する)、「茄子」は下が膨らんだなすびのような形、「丸壺」は丸い胴に細長い首がつく形などがあります。
もうひとつ例をあげると、上の「備前耳付水指銘巌松」。
同じように「銘巌松」は銘ですね。
「備前」は備前焼であること、
「水指」はものが水指であることを意味しています。
「耳付」は形の特徴をあらわしています。「耳」とは、今で言うストラップをつける穴です。
耳がついているので「耳付」。
同じような特徴をあらわす言葉としては、「下蕪」だと蕪はカブのことで丸く膨らんでいることを指すので、下側が丸く膨らんだ形です。
「菱口」は口の部分が菱形になっているもの。
わかりやすく「舟形」や「葉形」など形をそのままあらわしたものもあります。
あとは、「○○文」とあれば、その模様が描かれていることを指しています。
「山水文」「鳳凰文」「花鳥文」などさまざまです。
関連記事:茶碗鑑賞の基礎知識
1.基礎:茶碗の種類や名称を豊富な写真で
2.基礎:茶碗鑑賞のポイント、用語集
3.名椀・国宝茶碗一覧
4.名椀・重要文化財の茶碗一覧
5.近代・現代の茶碗
おまけ:国宝と重要文化財に指定された茶碗一覧。観賞用全リストPDFあり
東京都内で茶碗・茶陶の鑑賞ができる美術館・博物館一覧
茶碗写真の多くは「特別展『茶の湯』東京国立博物館 図録」「茶の湯のうつわ-和漢の世界-出光美術館 図録」より