戦後72年間の殺人事件・強盗事件・傷害事件と、自動車運転過失致死傷・業務上過失致死の認知件数をまとめました。
データでみると、実際の治安がどう移り変わっていったのかを客観的にみることができます。
最近、治安が悪くなったと良く聞きます。
子どもの頃からずっと聞き続けている気がします。
もし本当だとしたら、今頃北斗の拳の世界になっていそうなもんですが、実際はなっていません。
私が小学生から中学生のころまでに、実際に近くで起きた殺人事件は3件あります。
そのうち1件は有名な強盗強姦殺人事件で、もう1件は超有名な事件です。
子どもの狭い行動範囲内でも、身近に殺人事件がありました。
(たまたま特異な地域だったのかもしれませんが)
一方、大人になってから身近でおこった殺人事件は覚えがありません。
実際には、治安はとても良くなっています。
データでみてみましょう。
法務省が毎年発行している「犯罪白書」に、すべてのデータが書かれています。
http://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html
最寄りの図書館にも大体置いてありますが、今はすべてネット上でみることが出来るようになりました。
犯罪白書は、だいたい前年分が翌年の11月に閣議決定ののち公表されます。
昨年(平成28年)分はまだ発行されていないので、警察庁の犯罪情勢からデータを持ってきました。
こちらは大体7月くらいに発行されます。
1946年から2016年の犯罪件数
平成27年までのデータは「平成28年版 犯罪白書」
平成28年のデータは「警察庁:平成28年の犯罪情勢」より
総数:犯罪全体の件数
殺人;殺人認知件数
強盗:強盗(強盗強姦、強盗致傷、強盗殺人)の認知件数
傷害:傷害事件の認知件数
自動者:自動車運転過失致死傷および業務上過失の認知件数
人口:日本の総人口(単位は千人)
100万人あたり:人口100万人あたりの殺人事件認知件数(独自に計算)
区分 | 総数 | 殺人 | 強盗 | 傷害 | 自動車 | 人口 | 100万人 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1946 | 1,387,080 | 1,791 | 9,120 | 7,927 | 2,858 | ||
1947 | 1,386,020 | 1,938 | 9,186 | 11,865 | 3,810 | ||
1948 | 1,603,265 | 2,495 | 10,854 | 21,434 | 3,297 | ||
1949 | 1,603,048 | 2,716 | 8,780 | 32,627 | 5,157 | ||
1950 | 1,469,662 | 2,892 | 7,821 | 42,769 | 8,618 | 83,199 | 34.8 |
1951 | 1,399,184 | 2,865 | 6,124 | 43,890 | 11,895 | ||
1952 | 1,395,197 | 2,871 | 6,140 | 48,396 | 17,924 | ||
1953 | 1,344,482 | 2,944 | 5,296 | 52,525 | 27,341 | ||
1954 | 1,360,405 | 3,081 | 5,753 | 58,545 | 36,072 | ||
1955 | 1,478,202 | 3,066 | 5,878 | 65,978 | 42,550 | 89,275 | 34.3 |
1956 | 1,410,441 | 2,617 | 5,285 | 66,883 | 56,339 | ||
1957 | 1,426,029 | 2,524 | 5,029 | 70,023 | 71,600 | ||
1958 | 1,440,259 | 2,683 | 5,442 | 73,985 | 86,329 | ||
1959 | 1,483,258 | 2,683 | 5,192 | 73,014 | 100,466 | ||
1960 | 1,495,888 | 2,648 | 5,198 | 68,304 | 117,071 | 93,418 | 28.3 |
1961 | 1,530,464 | 2,619 | 4,491 | 68,321 | 129,549 | ||
1962 | 1,522,480 | 2,348 | 4,142 | 63,918 | 137,696 | ||
1963 | 1,557,803 | 2,283 | 4,021 | 59,730 | 180,327 | ||
1964 | 1,609,741 | 2,366 | 3,926 | 61,282 | 224,383 | ||
1965 | 1,602,430 | 2,288 | 3,886 | 58,702 | 258,805 | 98,274 | 23.3 |
1966 | 1,590,681 | 2,198 | 3,558 | 59,080 | 298,590 | ||
1967 | 1,603,471 | 2,111 | 3,009 | 59,234 | 385,627 | ||
1968 | 1,742,479 | 2,195 | 2,988 | 57,822 | 510,593 | ||
1969 | 1,848,740 | 2,098 | 2,724 | 54,392 | 597,062 | ||
1970 | 1,932,401 | 1,986 | 2,689 | 50,836 | 654,942 | 103,720 | 19.1 |
1971 | 1,875,383 | 1,941 | 2,439 | 46,090 | 633,366 | ||
1972 | 1,818,088 | 2,060 | 2,500 | 43,194 | 596,613 | ||
1973 | 1,728,741 | 2,048 | 2,000 | 43,385 | 540,790 | ||
1974 | 1,671,965 | 1,912 | 2,140 | 37,687 | 463,298 | ||
1975 | 1,673,755 | 2,098 | 2,300 | 34,136 | 441,374 | 111,939 | 18.7 |
1976 | 1,691,247 | 2,111 | 2,095 | 32,536 | 445,463 | ||
1977 | 1,705,034 | 2,031 | 2,095 | 32,479 | 438,337 | ||
1978 | 1,776,843 | 1,862 | 1,932 | 28,938 | 441,629 | ||
1979 | 1,738,452 | 1,853 | 2,043 | 26,431 | 450,528 | ||
1980 | 1,812,798 | 1,684 | 2,208 | 26,264 | 456,781 | 117,060 | 14.4 |
1981 | 1,925,836 | 1,754 | 2,325 | 25,778 | 463,786 | ||
1982 | 2,005,319 | 1,764 | 2,251 | 25,202 | 477,646 | ||
1983 | 2,039,209 | 1,745 | 2,317 | 23,803 | 499,399 | ||
1984 | 2,080,323 | 1,762 | 2,188 | 23,540 | 492,517 | ||
1985 | 2,121,444 | 1,780 | 1,815 | 22,302 | 514,558 | 121,048 | 14.7 |
1986 | 2,124,272 | 1,676 | 1,949 | 21,171 | 543,631 | ||
1987 | 2,132,617 | 1,584 | 1,874 | 21,046 | 555,311 | ||
1988 | 2,207,380 | 1,441 | 1,771 | 21,516 | 566,779 | ||
1989 | 2,261,076 | 1,308 | 1,586 | 19,802 | 588,446 | ||
1990 | 2,217,559 | 1,238 | 1,653 | 19,436 | 581,616 | 123,611 | 10.0 |
1991 | 2,284,401 | 1,215 | 1,848 | 18,634 | 577,139 | ||
1992 | 2,355,504 | 1,227 | 2,189 | 18,854 | 613,621 | ||
1993 | 2,437,252 | 1,233 | 2,466 | 18,306 | 636,525 | ||
1994 | 2,426,694 | 1,279 | 2,684 | 18,097 | 642,687 | ||
1995 | 2,435,983 | 1,281 | 2,277 | 17,482 | 653,408 | 125,570 | 10.2 |
1996 | 2,465,503 | 1,218 | 2,463 | 17,876 | 653,782 | ||
1997 | 2,518,074 | 1,282 | 2,809 | 19,288 | 618,891 | ||
1998 | 2,690,267 | 1,388 | 3,426 | 19,476 | 657,099 | ||
1999 | 2,904,051 | 1,265 | 4,237 | 20,233 | 738,764 | ||
2000 | 3,256,109 | 1,391 | 5,173 | 30,184 | 813,120 | 126,925 | 11.0 |
2001 | 3,581,521 | 1,340 | 6,393 | 33,965 | 846,455 | ||
2002 | 3,693,928 | 1,396 | 6,984 | 36,324 | 840,453 | ||
2003 | 3,646,253 | 1,452 | 7,664 | 36,568 | 856,435 | ||
2004 | 3,427,606 | 1,419 | 7,295 | 35,937 | 865,212 | ||
2005 | 3,125,216 | 1,392 | 5,988 | 34,484 | 856,298 | 127,767 | 10.9 |
2006 | 2,877,027 | 1,309 | 5,108 | 33,987 | 826,447 | ||
2007 | 2,690,883 | 1,199 | 4,567 | 30,986 | 782,192 | ||
2008 | 2,541,828 | 1,301 | 4,298 | 28,386 | 715,531 | ||
2009 | 2,410,490 | 1,095 | 4,535 | 26,545 | 696,837 | ||
2010 | 2,289,472 | 1,068 | 4,051 | 26,634 | 685,589 | 128,057 | 8.3 |
2011 | 2,161,911 | 1,052 | 3,695 | 25,922 | 659,084 | ||
2012 | 2,036,393 | 1,032 | 3,691 | 28,053 | 633,356 | ||
2013 | 1,917,929 | 938 | 3,324 | 27,864 | 603,889 | 127,094 | 7.4 |
2014 | 1,762,912 | 1,054 | 3,056 | 26,653 | 550,721 | ||
2015 | 1,098,969 | 933 | 2,426 | 25,183 | |||
2016 | 996,120 | 895 | 2,332 | 24,365 | 126,933 | 7.1 |
「殺人認知件数」には未遂を含みます。
このため,殺人既遂の人数はこの数値よりも少なく,例えば平成28年度は「認知:895,うち既遂:338」,平成20年度は「認知:1301,うち既遂534」となっています。
ちなみに,殺人事件をもう少し詳しくみてみると(平成28年)
認知件数:895
既遂認知件数:338
既遂検挙件数:256
うち面識あり:237
うち親族:149
未遂認知件数:557
未遂検挙件数:554
うち面識あり:476
うち親族:291
となっています。
殺人事件の多くは面識のある人同士の間で起こっていて、およそ半数が親族間となっています。
殺人事件はほとんど知り合いの間で起こっているので、治安とはあまり関係ないのかもしれません。
そこで凶悪犯罪である「強盗」をみてみると、確かに2000年代前半から半ばにかけて急激に増えています。
なにか統計上の理由があるのかと思いましたが(※)、見当たりませんでしたので、実際に治安が悪化したとみていいでしょう。
※長期にデータを取る統計情報は、途中で内容が変わったりします。今まで除外されていたものが含まれるようになったり、法改正があったり。強盗に関してこのような事情はみつかりませんでした。
ですがピーク時からみると、2016年はおよそ3分の1になっており、治安はかなり良くなっているともとれます。
比較的軽い犯罪である窃盗犯についても悪化しているようにもみえますが、30年前の水準とほぼ同じで、少なくても30年前より悪化しているということはありません。
2000年代はじめと比べれば大きく改善しています。
犯罪の総数は大きく増加していっているようにみえますが、これは自動者関連の犯罪の増加によるもので、治安の悪化とは言えないでしょう。
その総数も、2016年には100万を切って、戦後最も少ない数値となっています。
人口100万人あたりの殺人事件認知件数の推移
日本の総人口と殺人事件の認知件数から、100万人あたりの殺人事件認知件数を出してみました。
60年前のおよそ5分の1、2000年からみても3ポイントも改善しています。
体感治安と実際の治安
社会学の用語で、実際の治安ではなく、人々が感じる治安のことを「体感治安」というらしいです。
おそらく、実際のデータのように「治安がよくなった」と感じている人はほとんどいないでしょう。
多くの人が治安が悪くなったと言っていますし、最近では外国人が増えて治安が悪化した、なんてことも言われます。
※外国人の増加により治安が悪化したという一般的な事実はありません。機会があれば別の記事で書きます。
なぜ、体感治安と実際の治安はこんなに乖離しているのか。
ここからはただの憶測ですが、一番大きな理由はインターネットの普及でしょう。
「殺人事件」や「凶悪な殺人事件」の報に触れる機会が格段に増えています。
一昔前であれば、テレビのニュースか新聞・ラジオだけが事件を伝えるツールでした。
ニュースも新聞も、全国的な事件であれば遠方の事件を報じますが、そのほかは地域の地方欄に小さく出るだけでした。
インターネットであれば、地方の事件であってもすべて閲覧できます。
各メディアに触れる時間も、年々大幅に増加しています。
※ここでデータソースは出しませんが、マーケティング系の情報を調べれば出てきます。
遠くの事件、あたかも自分の身近で起きているかのように感じることで、治安の悪化を体感するのでしょう。
もう1点、ニュースが身近になったという理由もあるでしょう。
前までは、テレビや新聞を能動的に受信しなければ、情報は入ってきませんでした。
今は、スマホでニュースが流れてきますし、電車やタクシーに乗ればモニタにニュースが流れています。
街のモニターでもニュースが流れます。
なによりSNSで拡散されてきます。
外国人について、外国人滞在者や旅行者が大幅に増えているのは事実です。
でも実際に彼らと交流を持っている人はごくわずかですから、ほとんどの人にとっては「なんだか得体の知れない人たちが歩いている」と見えることもあるでしょう。
人間、よく分からないものには恐怖を感じます。
外国人をみるだけで恐怖を感じ、治安が悪化したと感じることもあるでしょう。
体感治安と実際の治安が違うことは、ただちに悪いことではありません。
ですが、「治安が悪化したから○○」というような、根拠のない差別や何かを言う人があれば、ちょっと立ち止まって考えてみて欲しいと思います。
もっとも、実際は治安が良くなったとは言っても、1年で約1,000件の殺人事件が発生しており、うち既遂事件は3割〜5割くらいなので、毎日1人が殺されているという単純計算が成り立ちます。
世界的にみても日本の過去を見てみても極めて少ない数字ですが、これをどう考えるかは人それぞれでしょう。