西洋近代絵画「新古典主義・ロマン主義」 概要
西洋絵画史上ではルネサンス、バロック、ロココという時代を経たころ、西欧文明は大きな変革を迎えます。
1789年のフランス革命と、同じ頃イギリスで始まった産業革命です。
これらの変革は、芸術にも大きな影響を与えました。
フランスの宮廷がパトロンであったロココは旧体制の象徴として忌避され、反動として厳格な古典主義が復権して新古典主義となりました。
一方、ナポレオンのヨーロッパ侵略と失脚も大きな影響がありました。侵略を経験した各地の民族は民族意識を高め、アカデミー主導ではなくそれぞれの画家の理想を描くようになります。さらに、神話や宗教ではなく、実際の出来事や光景を描くようになったのが、ロマン主義です。
まったく異なる新古典主義とロマン主義は対立し、論争を繰り広げました。
1800年頃〜 | ロマン主義 ↓ | 新古典主義 ↓ |
---|---|---|
写実主義 ラファエル前派 ↓ | 象徴主義 ↓ | |
印象主義 ↓ | ↓ | |
新印象主義 ↓ | ↓ | |
ポスト印象主義 ↓ | ||
1900年頃〜 | キュビスム ↓ | フォーヴィスム ↓ |
抽象主義 ↓ | 表現主義 ↓ | |
ダダイスム ↓ | シュルレアリスム ↓ | |
コンセプチュアル・アート | 抽象表現主義 |
新古典主義
新古典主義とは、18世紀から19世紀初頭に主にフランスで主流となった様式です。
1789年、フランスは市民革命により王政が廃され共和制となり、後に(1804年)ナポレオンの帝政となりました。
これによりフランスの芸術を牽引していた王立絵画彫刻アカデミーは絵画彫刻アカデミーとして再出発します。
新しい体制では旧体制で主流だったロココのような開放的で官能的な絵画は否定され、厳格な古典、得意に古代ギリシャの芸術、そしてルネサンス芸術を理想とし、ラファエロを理想とする普遍的な価値を表現しました。
題材としては、市民革命からナポレオンの戴冠・失脚という激動の時代にふさわしく、フランス革命のスローガンでもあった「自由、平等、友愛」を尊び、自己犠牲や自由への闘争、博愛が主題として選ばれました。
このほか、古代イタリアの都市ポンペイの発掘により高まった古代への関心と考古学や歴史への興味から、歴史画も多く描かれました。
新古典主義の絵画の特徴は形やデッサンを重視する様式です。
ダヴィッド
ジャック=ルイ・ダヴィッド 1748年〜1825年 パリ 新古典主義
自らもフランス革命に参加した画家で、革命後は「革命の主席画家」と呼ばれるようになるが後に失脚。
ナポレオンが政権を握るとダヴィッドも復権し、今度は「ナポレオンの主席画家」となる。
新古典主義の巨匠のひとり。

議場から追い出された平民議員(第三身分議員)たちが、ヴェルサイユ宮殿の球戯場を新たな議場として集まったフランス革命の重要なシーンを描く。
誓いの内容は「新たな憲法が制定されるまで解散しない」つまり革命を決意したシーンでもある。

ナポレオンのプロパガンダ絵画で最も有名な1枚。
ナポレオンがアルプス越えをする姿を理想化して描く。
左下にはナポレオンの名前と並んで、紀元前のアルプス越えの英雄ハンニバルと、同じくアルプス越えをした神聖ローマ帝国初代皇帝カール大帝(シャルルマーニュ)の名前を刻み、ナポレオンを2人の偉大な先人と並ぶものと讃えている。

ナポレオンのプロパガンダ絵画の1枚。
横幅10メートル弱の大作で人物はほぼ等身大、鑑賞者が実際にその場にいるかのような臨場感を与える作品。
ナポレオンが皇后に戴冠する場面を描く。
アングル
ドミニク・アングル 1780年〜1867年 フランス 新古典主義
ダヴィッドから新古典主義を受け継いだ新古典主義の巨匠。
新古典主義とロマン主義の論争では新古典主義の旗手として活躍する。
アングル最大の特徴はデッサン。色彩や明暗よりも形態を重視し、写実的に描くよりも自分の美意識を重視して描いた。ポスト印象主義をはじめ後生の芸術家に多くの影響を与えた画家のひとり。
代表作かつ集大成の作品は『トルコ風呂』1863年

裸体画を多く描いたアングルの新境地を開いた作品。
解剖学的にはありえない人体であるが、解剖学的な正しさよりも自分の美意識を重視した。